「まぁ、前置きはこのくらいにして……」
「……………………」
「洸太くんから言われた?」
「……………何を?」


ナツキの問いに、颯弥がそう応えた。
颯弥の表情を見る限り、洸太から言われた様子はなさそうだ。
"まぁ、そんな事だろう"と、ナツキが声音を重ねる。


「やっぱりねーー」
「…………………」


ナツキがジャケットからあるモノを取り出すと、それを広げ、颯弥の前へと置いた。
そう、それはファン喰いの警告のあのビラだ。


「これ………」
「…………………」


ナツキが颯弥を見つめる。
颯弥の表情は動じない。
それどころか、ナツキが言いたいであろう事を察しているようだ。
そう、言いたい事の見当はつく。

その表情を見て、ナツキが微笑する。


「洸太くんにも言ったんだけどさーー」
「……………………」
「あ、心配しないで、みんなにも言ってるからさ……」
「…………………」


ナツキが危険・要注意人物が記された箇所で、指をトントンと弾かせる。
ナツキが颯弥を見つめ、忠告する。


「あんまり派手な動き、しないでくれる?」
「…………………」
「自分のファンの子にとかさ……」
「…………………」


颯弥の鼓膜に触れる、声色声音。
ナツキはすでに察しているようだ。
颯弥の女がダレなのか。

だが、颯弥は動じない、表情を変えない。
その表情を見つつ、ナツキが続ける。


「でも、ファンの中にはさーー」
「…………………」
「『SpiDer』も『devilish』も両方好きな子もいる、両方のライブに通う子もいるわけよ……」
「…………………」
「それは『devilish』に限った事じゃない、それに『SpiDer』のライブにお友達が誘われたり、一人でも興味本位で来る子もいる…ファンじゃない子もいるかもしれない……」
「…………………」
「いろ~んな女の子がいるわけよ……」
「…………………」


ナツキがグラスを傾ける。
お酒を口にすると、グラスをゆっくりと置いた。


「興味と危険は隣り合わせ……」
「…………………」
「ヘタな女、ファンに手を出すと、自分の身を滅ぼす……自滅だけならいいけどね……」
「…………………」
「でもそうはいかないでしょ、現実問題……」
「…………………」

「バンド界隈、そのファンたちの中で見えても見えなくても、ずっとザワついてる……」
「…………………」
「ずっと何でも好き放題はダメでしょ……」
「…………………」


颯弥がグラスを傾ける。
お酒を口にすると、グラスをゆっくりと置いた。

ナツキの声音がそれに連なる。



「ナニかあってからじゃ……遅いでしょ?」
「……………………」





















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